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  • 2016.01.24 Sunday

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    ■はじめに■

    • 2016.01.24 Sunday
    • 20:46
    ■現パロ・転生ネタ
    ■ジョナ+ジョセ+承には前世の記憶が夢の形で現れている。他キャラには前世の記憶はない
    ■195cm組は兄弟(ジョナジョセが異母兄弟だったり、承太郎が実は従弟だったりの裏設定あり)・同居中
    ■ジョナサン27歳・ジョセフ19歳・承太郎17歳
    ■ディオは3兄弟の幼馴染
    ■シーザーは元ヤンキーで貧乏社会人
    ■ポルナレフ&花京院は同級生

    少しずつ設定が増えるかもですがそれをふまえて読んでいただけると幸いです
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      朝はコーヒー派

      • 2016.01.24 Sunday
      • 20:45
      「今日の新聞どこ?」
      日曜の朝、一番最後にダイニングルームに入ってきたジョセフの言葉にジョナサンは目を瞬かせた。
      「なによ?」
      「あ、いや、ゴメン。君、新聞読むんだね」
      一瞬反応が遅れたジョナサンに、ジョセフは唇を尖らせて返した。
      「なんだよ、それ。あったりまえじゃん。どこよ?」
      「今承太郎が読んでるから。先に朝食済ませなさい。君だけだよ、食べてないの」
      「ちぇー。どうせアイツスポーツ欄しか読んでねーだろ。ちくしょう」
      じゃあ君はどこを読むんだい?と訊くところだったが、この弟が一時期株に凝っていたのを思い出してジョナサンは言葉を飲み込んだ。今は何に興味を持っているのか判らないが、視野の広さは自分以上だ。
      ジョナサンは軽く肩を竦めて、パンをトーストにセットした。
      ジョセフは素直に椅子に座って頬杖をつき、パンが焼けるのを待っている。
      「コーヒー?紅茶?」
      「あ、いいぜ。自分でやる」
      ジョナサンの問いにジョセフは立ち上がった。そしていそいそと冷蔵庫に向かい、冷凍庫に保管しているお気に入りのコーヒーを取り出してゴリゴリと豆を挽きだした。
      「凍らせておくの?」
      「そ。この保存方法が一番いいのよン」
      ニヤリと笑って手際よく準備するジョセフに、ジョナサンは「よく知ってるね」とマグを差し出す。
      ジョセフは鼻歌を歌いながらドリッパーとサーバーを準備し、挽き立てのコーヒーに湯を注ぐ。小さなダイニングに香ばしい香りが漂ってきた。
      ジョナサンは弟の手際よさを見ながら目を細めた。いつも何をさせても「面倒くせぇ」と口にするジョセフが、率先して行う作業だ。これだけは誰にもさせない、と言いたげに。
      ジョセフの淹れたコーヒーは、香りが深くそれでいて苦みが少ないので紅茶派のジョナサンが飲んでも美味しく味わえた。こんなに凝った淹れ方を始めたのはつい最近だ。それまではほとんどインスタント、気が向いた時だけドリップコーヒーを嗜む程度で、いつ買ったのかわからないような粉で淹れていたというのに。
      いったい誰に影響を受けたのか。ジョナサンにはなんとなく予想ができた。
      ジョセフの誕生日に、家にやってきた金髪の青年。
      礼儀正しく、真っ直ぐな瞳をしていた。
      その日ジョナサンの代わりにキッチンに立った彼の料理はそれは美味しいものだった。おそらくジョセフがキッチンに立つようになったのは彼の影響もあるのだろう。
      「美味そうだ」
      リビングから承太郎が顔を出した。
      「ジョセフ、おれも」
      そう言ってテーブルにつく。
      「てめぇ、ずうずうしいヤツだな」
      「じゃあぼくもいただこうかな」
      「ジョナサンもかよぉ。ちょっと待ってくれよ、もう」
      ブツブツボヤキながらも再び豆を轢き始めるジョセフの背中を見ながら、ジョナサンは微笑んで席についた。
      隣に座っている承太郎は左手に持っている新聞を熱心に読んでいる。覗き込むとジョセフの言った通りスポーツ欄だ。ジョンサンは一瞬吹き出しそうになるのをぐっとこらえて
      「承太郎は本当に相撲が好きなんだねぇ」と言った。
      無口な末っ子は「あぁ」とだけ答えて目線は新聞から逸らさない。
      「ねぇ、承太郎」
      末っ子は返事をしない。が、かまわずジョナサンは続けた。
      「ジョセフはいつからこんなにマメな子になったんだろう?」
      「…マメじゃあねーぜ、全く」
      こちらの言葉はやはり聞こえている様で、承太郎はきっぱりとジョナサンの言葉を否定した。
      「だってぼくらにコーヒーを入れてくれているんだよ?これをマメと言わずしてなんと言えばいいんだい?」
      「美味く淹れられるようになったから飲ませてーんだろ。今アイツがそれにハマってるだけだ。それだけのことだぜ」
      つきあってやってんのはこっちだ、とでも言いたげに、承太郎はそう言った。承太郎はいつもジョセフに手厳しい。しかしいつも妙に的を射ている。
      酷くつっけんどんに見える態度だが、実のところ一番ジョセフの事を理解しているようにも思えた。
      ジョセフと承太郎の『記憶』には同じ時を生きた、という時間があるらしい。どうやら二人の関係は祖父と孫にあたるらしく、それはジョナサンとジョセフの関係と同じなのだが、自分にはジョセフと生きたという『記憶』がない。
      ジョナサンにはそのことがひどく羨ましく思えて仕方がないのだ。
      そして、ふと思ったことを承太郎に確認してみたくなった。キッチンに立つジョセフに聞こえないように声を押さえて、ジョナサンは尋ねた。
      「君は知っていたのかい?」
      「何をだ?」
      「この間、家に来ただろう?ジョセフの友達の…シーザーくん」
      「あぁ」
      承太郎はジョナサンの質問にやっと新聞から目を離し、それを4つに折りたたんでからテーブルの上に置いた。
      「名前だけはな。時々アイツの話に出てくるからよ。あとは…一度街で見かけたことがある。一緒に歩いてるところを」
      「そうじゃなくて」
      ジョナサンの言葉に承太郎は小さく首を傾げた。
      「君の『記憶』の中で、だよ」
      「あぁ、そっちか。さぁな。おれの記憶にはねーぜ。アイツのダチはもうちょっと浅黒いいかつい面構えの男だった…アヴドゥル、という名前の…」
      「アヴドゥル?…アブドゥル…」
      どこかで聞いたような気がしてジョナサンはその名前を二回口にした。
      どこでだったろうか。つい最近だったような気もするし、ずいぶん前だったような気もする。
      すっかり黙り込んでしまったジョナサンに、承太郎は「肝心な事は何も言わねーからな、アイツは」と独り言のように小さく呟いた。
      やっぱりそうだ、とジョナサンは思う。
      このぶっきらぼうな末っ子は、本当にジョセフの事をよくわかっている。
      「あぁ、そうだね。本当にそうだ。普段はあんなにおしゃべりなのにね」
      「まったくだ」
      ジョナサンの言葉に承太郎はそう言ってニヤリと笑った。
      「なぁにコソコソ二人でしゃべってんのヨ?」
      両手にマグカップを持ったジョセフが怪訝そうに二人の顔を覗き込んだ。
      「別に…ねぇ」と言ってジョナサンは承太郎に目くばせする。
      それを受けて承太郎が答えた。
      「てめーが毎日フラフラ遊びまわってるからジョナサンが心配しておれに訊いてたんだぜ。ちゃんと勉強してるのかってよ」
      「はぁ?!何だそりゃ。ちゃんとやってるぜッつかさ、人にコーヒー作らせといて二人しておれの噂話?ありえねー」
      口を尖らせそう言って、ジョセフは二人にマグカップを差し出した。
      芳しい香りが漂っている。
      「ほら!ありがたく飲みやがれ。ちくしょう」
      「ありがとう」
      ジョナサンはカップを受け取ると香りを楽しむように息を吸い、一口、口に含んだ。雑味のない、すっきりとした味だ。
      「美味しい」と言うと、ジョセフは満足そうに笑い、「だろ?」とウインクした。
      「おれって天才かもー」
      自分でも一口飲み、「うめぇ」とジョセフは満足そうに言った。
      承太郎も口に出して褒めはしないが、美味しく味わっているようだ。表情で判る。
      「ねえ、ジョセフ」
      「ん?」
      「こんな美味しいコーヒー、ジョセフはシーザーくんに淹れてもらってるの?」
      ジョナサンが訊くと、ジョセフは一瞬目をぱちくりとさせ、それからニヤリと笑って
      「ナイショ」
      と一言だけ返した。
      それを見て「あぁ、肝心な事はやっぱり黙っておくんだなぁ」と、ジョナサンは妙に可笑しくなったのだった。

      探し物

      • 2015.11.29 Sunday
      • 14:11
      待ちぼうけなんて久しぶりだった。
      ジョセフは頬杖をついて窓の外を見た。
      休日の昼下がりの商店街は、若者でごった返している。
      店内もトレイを持った数人が席を探している。人気のコーヒーチェーン店だ。入り口に一番遠い席に座っていたジョセフは、大きな身体を気持ち小さくして、テーブルの上のカップを口にした。注文したカフェラテはすでにぬるくなっている。
      待ち合わせの相手、シーザーは、それはそれは生真面目な男だったので、出あってからこのかた、待ち合わせの時間に遅れてくることは一度としてなく、待たせるのはいつも自分の方だった。(いきなりアポなしで押しかけ、シーザーのアパートの前で何時間も待ったことはあったが)
      シーザーからはひっきりなしに「今交差点だ」「今本屋の前だ」と短いメールが届く。
      それを見るたびにジョセフは時間つぶしのアプリゲームを中断さざるを得なくなり、
      「こっちに来ることに集中しなよッ」と相手に届かぬ言葉をスマホにぶつけるのだった。
      さて。
      待ち合わせの時間に遅れる事30分。
      息を切らして走ってきた色男が店内に入ってくる。
      誰かを探しているような様子でキョロキョロと店内を見回すと、周囲の女性客が色めき立つ。
      あれま、注目されちまってるよ、さすがおれのシーザー、とジョセフが目を細めてそれを観察していると、やっと目が合い、慌てた様子でシーザーがこちらに歩いてきた。
      「待ちくたびれちゃったぁん。シーザーちゃん」
      「すまんッ!本当に申し訳ないッ!」
      「後でしっかり言い訳きくからさ、とりあえず何か買ってこいよ。おれホットカフェラテおかわりね。Lサイズで」
      「わかった。奢る」
      「当然よ」
      ニヤリと笑ってそう言うと、シーザーも笑い返してきた。
       
       
      席についたシーザーはLサイズのアイスコーヒーをストローを使わずにぐいっと飲み、はーっと大きく息をついてから、
      「すまん」と、もう一回謝った。
      「珍しいじゃあねーか。こんなに遅れるなんてよぉ。…もしかして、仕事だった?」
      「いや」
      そう返事してシーザーは肩を竦め言った。
      「財布が、見つからなかったんだ」
      「は?財布?」
      「あぁ、出かける前にいつも仕舞っている場所に財布がないことに気がついてな、探していたら遅くなった」
      「へー」
      それもまた珍しい、とジョセフは思った。
      何度もシーザーの家にはお邪魔しているが、ジョセフが眉をひそめるほどこの男、几帳面なのである。部屋の隅にまでホコリがない、とかいうのではなく、置き場所をきちっと決めるたちの様で、物が乱雑になっているところを見たことがない。
      ジョセフが遊びに行って上着を脱ぎっぱなしで放っておくと、頼みもしないのにハンガーにかけているし、部屋にある雑誌を読み散らかすと、気がつけば片付いている。
      物が見つからないなんて滅多にないことだろうに。
      「いつもあるはずのところに物がないと、焦ってなかなか見つからなくてな」
      と、シーザーは自嘲気味に笑った。
      「ふーん」とジョセフはそう返事して、ずずっとカップを啜った。
      「…だからじゃね?」
      「え?」
      「いちいち置く場所決めるからそこにねーと焦る。そんなもんきっちり決めずに適当にしときゃあ、見当たらなくても焦らず探せるぜ?」
      「そりゃ…どう…だろう…?」
      ジョセフの提案に、シーザーが言葉を詰まらせ眉をひそめる。
      「多分なシーザー。お前の中に『財布はここにあるはず』っていう思い込みが頭のどっかにあんのよ。それで探す時も結構視野が狭くなってんだと思うぜ。適当に物を置いてりゃあよ、見当たらねーのは当たり前だから全体に目がいくもんよ。おれはいつもそうしてるぜ」
      「で?それでお前、探し物は見つかるのか?」
      「半々だ」
      そう言ってジョセフが笑うと、シーザーも吹き出した。
      「相変わらずいいかげんなヤツだな」
      そう言って笑う。
      『いいかげんな奴だ』
      そういえば前も言われた。『前』というのは記憶の中にある『前のおれ』。
      初めて会った時、シーザーは、「いいかげんな奴だ。気にくわん」と憤慨しながら罵ったのだ。
      それが今は笑っている。
      同じように『いいかげん』と評しても、ずいぶん違うものだな、とジョセフは思った。
      「どうした?」
      「んにゃ。別に」
      怪訝そうにうかがうシーザーにジョセフは笑って返し、カップのカフェラテを飲み干した。

      ハッピー♥バースデー

      • 2015.09.27 Sunday
      • 13:38
      「明日おれの誕生日なんだよねー」
      ジョセフのなにげないその一言が、シーザーを動揺させた。
      ジョセフの気まぐれはいつものことだ。何度口酸っぱく言ってもアポなしで家に突然来るのは毎回で、こちらが数日前に会う約束を取り付けてもドタキャンすることもある。
      そんなジョセフの行動にもすっかり慣れたシーザーも、今回の告白にはびびったッ!
      なんで、そんな、大事な事を、今言うんだッ!!
      あの花火の日以来、二人は友達から恋人にランクが上がった。
      だが、上がったのはランクだけで、恋人らしいことはほとんどしていない。なかなかキスをするムードにもならない。
      お年頃の二人ゆえ、キスをしてしまうと最後までなだれ込んでしまい翌日夕方まで惰眠をむさぼることになってしまうのだが、社会人のシーザーと学生のジョセフの休みも合わず、なかなか身体を合わせる機会もない。全くしていないこともないのだが。
      当のジョセフはしれっとその一言を言った後、目の前のから揚げ定食をぱくついている。
      シーザーは一口大に切ったサバの味噌煮をぽろっと皿に落として固まったままだ。
      シーザーの頭の中は渦巻いていた。
      どうする?シーザー・A・ツェペリよ。恋人になって初めての誕生日だぞ。いわば記念日だ。明日は都合よく日曜日、仕事も休みだ。だがッ!金も時間もないッ!これからこいつのためにバースデープレゼントを見繕う金と、時間がッ!!
      だがベタなラブコメにありがちな「おれがプレゼント!」などと恥ずかしいことは言えないッ!第一「おれがプレゼント」だと?意味が分からんッ「一日中一緒にいれる権」や「ジョセフ君のお部屋を掃除してあげる権」か?それなら意味が分かる。だが、それは本当にコイツが喜ぶことなのだろうか?
      「食べねーの?」
      固まって仕舞ったシーザーを怪訝そうにジョセフは覗き込む。
      「いや…食う」
      余りの突然の告白に、シーザーは「なぜ、今JOJOがその告白をしたのか」まで気が回らなかった。答えはすぐ見つかるというのに。
      シーザーは動揺を抑え込みサバの味噌煮にかぶりついた。極力普段通りに努めた。だが彼の気持ちはダダ漏れで時々むせてはごくごくと大量の水を飲んだ。
      そんなシーザーの様子にジョセフは軽くため息をついて、
      「やっぱおれから言わなきゃダメかー」
      と呟いた。呟いてからシーザーを覗き込むようにして、言った。
      「今日さ、シーザーんち、泊まって、い?」
      「いッ!いいともッ!!!!!」
      ジョセフはシーザーの答えに一瞬きょとんとし、それから「タモリかよ」とゲラゲラ笑いだした。
      「何がおかしいッ!」
      と、シーザーは顔を真っ赤にして怒ったが、ジョセフは涙が出るくらい笑いこけて、不機嫌になるシーザーを宥めるのに少々手間がかかってしまった。
       
       
       
      定食屋を出るころには真顔で「コンビニに寄ってゴムを買う」と言えるほどにシーザーは落ち着きを取り戻していた。
      「お前ホント現実的な」
      ジョセフは少し顔を赤らめて返した。
      「必要なマナーだろ。たしかもうほとんど残ってなかったはずだ」
      「…一晩中飲み明かすとかの選択肢はねーの?」
      「ないな。この期に及んでお前はあるのか?意外だな」
      「…ない」
      「だろう?」
      自分のペースになると、シーザーは強気だ。テンパるシーザーも可愛いと思うが、自信に満ちたシーザーも素敵だとジョセフは思う。
      「そのギャップがたまんねーんだよな…昔っから」
      ジョセフはくくっと笑って、すたすたと前を歩くシーザーの後に続いた。
       
       
      さて、ひとしきり相手の身体を貪った後、シーザーの隣にすっかり甘えモードのジョセフが横になって「なぁなぁシーザー」とシーザーの二の腕に額を擦り付けている。
      「なんだ?」
      日付はすっかり変わっていて、すでにジョセフの19回目の誕生日がきていた。
      「あぁ、そうか」
      シーザーはそれに気づき、ジョセフの額にキスを落とした。
      「誕生日おめでとう、JOJO。愛しているよ、世界中の誰よりも」
      渾身の甘い声で一番最初の祝いの言葉を紡ぐ。
      「そうじゃなくてな、シーザー」
      「ん?」
      「おれ、誕生日にシーザーにひとつおねだりしてもいいか?」
      『今夜、泊まって、い?』はおねだりではなかったのか?シーザーはそう思ったが、「いいぜ」と答えた。なにせそのことに関しては自分も十分すぎるほどに楽しんだのだから。
      「飯を、作って欲しいんだ」
      ジョセフが続けた言葉は意外なものだった。
      「そんなこと…いくらでも作ってやるぜ。何が食いたい?ネーロか?ピッツァか?」
      「おれんちさー。誕生日には絶対家族で軽くパーティーするんだよ」
      シーザーの問いにあまりジョセフはまともに返さない。これはいつもの事なのでシーザーはジョセフの次の言葉を待った。
      「今日もジョナサンが手間暇かけてなんか料理を作ると思うんだよねー」
      「それならおれが作っちゃあ迷惑になるだろう?折角ジョナサンさんが作ってくれるのに」
      「それがさー…あんまり美味くねーのよ」
      正直とはなんて残酷なのだろう。ジョセフの事を想い、ジョナサンが毎年趣向を凝らし愛情込めて作ってきたのだろう料理を、当のジョセフはバッサリだ。
      どちらかというと常に作る側のシーザーはジョナサンの気持ちを思い胸が痛んだ。
      「おれ初めてシーザーが作ってくれた料理食った時、世の中にはなんてうまい飯があるんだろうって感動したんだぜ」
      「初めてって…何作ったんだったか?おれ」
      「ほら、冷蔵庫にあるやつでさ、ぱぱっと作ってくれたじゃん。なんか餃子っぽいやつ」
      「あぁ…ラビオリな、ってあんなものでかッ!」
      「いや、マジ美味かったもん」
      ジョセフの表情は真剣だ。いつもの「何か企んでる」顔ではなく、妙に素直な時のあれだ。
      シーザーは今のジョセフの言葉が「裏のある」「なにか企んでいる」方の言葉ではなく、「本気でそう思っている」時の言葉だと理解した。
      「で?ラビオリが食いたいのか?」
      「うん、ラビオリでもネーロでもピッツァでもいいんだけどよ」
      ジョセフの表情が変わる。ニヤッと口の端だけで笑う。
      「おれんちに今日の晩飯、作りに来てくんね?」
      「いいぜ、そのくらいなら…」
      と返事をしてシーザーははっと我に返る。
      家族に、紹介される。
      晴れて恋人同士になって、こういう付き合いをしてきて、家族に紹介されるいうのは…
      将来をみこして付き合うということッ!!!!!!
      将来、おれとお前が家庭を築く、ということッ!!!!!!
      「お前…そこまで考えてッ…マンマミーア!うれしいぜッ!JOJO!!」
      シーザーは感激してジョセフを抱きしめた。
      「ちょ…シーザー。何にお前が感激してるのかはイマイチわからねーが話を最後まで聞け。大事なのはジョナサンにいかに料理を作らせないかってことなんだ」
      「え?」
      「あの人なかなか頑固なとこあってよ、自分の考えを譲らねーの。多分シーザーをいきなり連れてってもキッチン使わせてくれねーって思うわけよ」
      シーザーはその言葉を聞いていささかガッカリした。
      どうやらジョセフの「飯を作りに来てほしい」の言葉には一切裏はなく、「美味い飯で誕生日を祝ってもらいたい」だけだということに気付いてしまったからだ。
      「おれが考えたのはこうよ。まず承太郎に間に入ってもらってさ」
      ジョセフは嬉々として自分の作戦を話していたが、シーザーは上の空だった。正直作戦などどうでもよかった。自分とジョセフの温度差を感じてしまったからだ。
      「なぁ、シーザー。聞いてる?」
      「聞いてるぜ。お前と弟さんがお兄さんを連れ出してる間に、お兄さんが用意してある材料でおれが料理を作る、ってんだろ。任せろ」
      「ホントに大丈夫かよ。…眠いのか?シーザー」
      「眠むかぁないさ。まだ宵の口だ」
      できればもう一発やっておきたいくらいだ、という言葉をシーザーは飲み込んだ。
      なんとなく、ジョセフはもう「美味い飯」にだけ気持ちがいっていて、恋人同士の甘い時間などどうでもいいように思えたからだ。
      空しい気分で、シーザーはジョセフに力なく答える。
      「どんな材料でも、お前の満足するメシを作ってやるさ」
      「それもだけどよー」
      妙に気持ちが入っていないシーザーに向かって、ジョセフはいきなり馬乗りになってキスをする。
      「…JOJO」
      「この作戦、大事なんだぜ?お前をジョナサンに認めさせる、っていう点でも」
      「え?それは、どういう…」
      シーザーの問いをジョセフは唇でふさぐ。
      「ん…」
      舌を絡める恋人同士のキス。ジョセフからの積極的な口づけに、シーザーは夢中になった。
      唇を、頬を、首を、胸を、味わうごとに今までの会話などどうでもよくなっていく。
      「JOJO…JOJO」
      もうシーザーにはジョセフしか見えなかった。
      どういう理由だかはっきりしないが、JOJOが望むのならいくらでも美味い飯を作ってやる、そう思った。
      温度差などいつか越えられるはずだ。越えてみせるッ!!
      ジョセフの身体を掻き抱きながら、シーザーはなぜか熱く心に誓っていたのだった。
       
       
      ジョセフは隣で眠るシーザーを起こさないようにむくりと身体を起こし、自分のスマホに手を伸ばした。案の定、ジョナサンからのメールが山のように入っている。
      ふうとため息をついてアプリを閉じると、シーザーに向き合う。
      眠った顔はいつもの険が消え穏やかだ。ジョセフはふふっと笑うとシーザーの頬に軽く口づけた。
      「ジョナサン愛情深いからなぁ…頼むぜ、シーザー」
      この日を境に、恋人であることをジョナサンに認めてもらうための長い長い戦いが始まることを、穏やかに眠るシーザーはまだ知らなかった。

      花火

      • 2015.08.02 Sunday
      • 16:19
      梅雨があけ、待望の夏休みが来てもジョセフの心は晴れなかった。
      シーザーのバースデーに告白されてキスされたというのに、肝心のシーザーの方はそのことをすっかり忘れていたからだ。
      当時二人ともべろんべろんに酔っていたとはいえ、自分がそれでどれだけ心をかき乱されたかと思うと、シーザーが不誠実に思えてジョセフは憤慨した。
      しかし、憤慨したと同時に心の底で少しホッとしたのも事実だ。
      シーザーとはこれからも変わりなく付き合える、そう思った。
      思ったのに。
      あれから妙にシーザーの色んな仕草を意識して、その度にドキリと心臓が跳ねるようになった。
      特に唇。二人して食事をしている時に、つい見つめてしまう。食事の合間にぺろりと唇を舐める舌を見ると、体が熱くなる。
      「?どうした?JOJO。ぼんやりして」
      「なっ…なんでもないぜッ」
      ジョセフは気づいてしまったのだ。
      シーザーを性的な目で見てしまう自分に。
      自分のそんな感情に向き合いたくなくて、ジョセフはシーザーから距離を置いた。
      こっちから連絡をしなければ自然に会うこともなくなるのだ。シーザーから連絡が来ることはほとんどないのだから。
      3、4日、メールをしないでいると、シーザーの方から連絡をしてこないことに妙に腹が立った。
      「連絡して来いよッおれと疎遠になってもいいわけッ!?」
      と、就寝前、別の友達からのLINEのメッセージにそつなく返信を終えた後、メールアプリにシーザーからのメールがないことを確認して、ジョセフはスマホに向かって吠えた。
      なんとなく悔しくてこちらからもメールを送らずに4、5日。
      すると、今度は寂しくなった。
      「おれはこんなに寂しいのに、シーザーはおれといなくても平気なんだ」
      日中は他の友達と遊んでいてすっかり忘れてしまうのだが、夜、就寝前にメールアプリを見ると、何も入っていないことにガッカリした。
      「はー…」
      いつもの如くジョセフが食卓で大きなため息をついたので、ジョナサンと承太郎は顔を見合わせた。
      何度理由を聞いても答えない。気が塞いでいるのは判っていたが、食事はいつものようにモリモリ食べるし、普段心配性のジョナサンも今回はそっとしておくことに決めていたのだ。
      「今日の花火大会、二人はどうするんだい?」
      話題作りにジョナサンは二人に問いかけた。
      「おれは、出かけるぜ。ダチと約束があるんでな」
      珍しく承太郎から返事が返ってきた。彼は彼なりに場の空気を気遣っているようだった。
      「花火…」
      ジョセフはぽつりと呟いた。
      そういえば、スージーQやスモーキーたちとみんなで見に行こうってそういう話があったな。おれはシーザーと行くかもしんねーから保留にしてもらってたんだ。すっかり忘れてた。シーザー、急に誘っても絶対バイト入れてるだろうな…。シーザーと行きたかったぜ。
      「ジョセフ?」
      「え?…あ、なに?」
      「ぼくも承太郎もそれぞれ花火見に行くけど、君は?お友達と行くのかい?」
      「心配しなくてもコイツがこんなイベントごとに家でじっとしてるわけねーぜ、ジョナサン」
      「なんだよッ承太郎ッその言いぐさ」
      「それもそうだね、ふふふ」
      「ジョナサンまでッ!」
      兄弟たちのからかいの言葉に不平を言いながら、ジョセフは気持ちを切り替えた。
      花火でも見てパーッと気分を晴らそう。屋台巡って腹いっぱいになってもいいや。
       
       
      市内の花火大会はこの地方でも1、2を争うほどの人出だ。
      駅近くのショッピングモールで時間つぶしに涼んだ後、ジョセフはスージーQたち大学の友達グループと花火会場へ移動を始めた。
      会場に近くなればなるほど、人も増えていく。
      「海の近くの公園が穴場スポットらしいわよ。ちょうど打ち上げ場所の対岸になってて仕掛けもよく見えるんですって」
      スージーQはそう言って、女友達とおしゃべりをしながら歩いていく。
      車道を歩行者専用にして、屋台がずらりと軒を連ねていた。
      「うはー、美味そう」
      「JOJO、屋台は後よ」
      スージーQに腕を引っ張られて、公園への道を歩く。歩行者専用道路は通らず、仕切られているポールに沿って進んでいく。少し前に歩いていた女の子たちが交通整理員に止められていた。
      「あら?ここは通れないのかしら」
      ジョセフは身体が固まった。目の前に立っている交通整理員。背が高く、浴衣姿の女の子に笑顔で対応している。ヘルメットから見える金の髪。
      Uターンしてきた女の子たちが「さっきの人、カッコよくない?」「イケメンだよねぇ♥」などとはしゃぎながら通り過ぎて行った。
      ジョセフの視線の先の男は、交通整理棒を軽く振りながら、
      「ここは歩行者通れませんよ」と話しかけてきて、ジョセフの姿を見て動きが止まった。
      「JOJO…」
      「…シ−ザー」
      なんという偶然。
      こんな人ごみの中で出会えるなんて、しかもこんなお祭り会場でバイトとか、どれだけ仕事熱心なんだよ。
      ジョセフはいつもならそんな軽口で笑って言えるはずだったのだが、ただ茫然とシーザーを見つめていた。
      「JOJO、何してるの?行くわよ」
      スージーQの声にはっと我に返る。
      「お、おう」
      「久しぶりだなJOJO…友だちか?」
      「うん、大学の」
      「そうか。楽しんで来いよ」
      シーザーはふっと笑ってそういうと、ジョセフに背を向けた。
      ちりっと胸の奥が痛んだ。
      コイツの背中を見るのは嫌だ。
      遠ざかる背中に涙が溢れた。何度も夢に見た後ろ姿だ。夢の中の自分は、それきりシーザーと今生の別れになってしまったのだ。
      「どうした?ジョースター?」
      駆け寄ってきたシュトロハイムに慌てて涙を誤魔化すと、ジョセフは笑いながら言った。
      「わりい、おれ、ちょっと抜けるわ。みんなにもそう伝えてくれよ」
      「え?おいッ何を言っている?ジョースターッ」
      慌てるシュトロハイムの肩をぽんっと叩いて、ジョセフは走った。シーザーの元へ。
      シーザーは仕事に戻って黙々と交通整理棒を振っている。時折こちらに歩いてくる歩行者に注意している。
      走ってくるジョセフの陰に、一旦整理棒を振りながら歩み寄ってきたが、影がジョセフだと判ると棒を下ろして立ち止まった。
      「お前、なんで…」
      「へへっシーザーと花火見ようって思ってさ」
      そうジョセフが笑うと、シーザーは困ったような顔をして少し笑った。
      それからシーザーは仕事に戻ったが、ジョセフはその横で立っていた。
      「おれは仕事中だぞ」
      「うん。熱心ね」
      「からかうな。ここからじゃあ仕掛け花火はほとんど見えんぞ、おそらく」
      「尺玉くらいは見えるだろ?でっけーの見れりゃあいいのよ」
      「いいのか?友達は?」
      「いい。シーザーと居たいんだ、おれ」
      ジョセフがそう言うと、シーザーはジョセフに振り返り、しばらくじっと見つめてきた。
      その間ジョセフもシーザーの顔をじっくり見る。
      久しぶりだ。さっき女の子が「かっこいい」って言ってたけどホントだな。端正な顔立ち。睫も長ぇし。しかも女性にはスケコマシオーラ全開にするからな。
      「…勝手にしろ」
      シーザーはぷいっと背を向け、再び仕事に戻る。
      仕事中はほとんどしゃべらない。真摯に仕事に向き合う姿勢は、生真面目な彼の性格が垣間見えた。
      ジョセフからすれば「少し手を抜いても誰も見ていないのに」という感じではあるが、それがシーザーの良さなのだ、ということもジョセフは判っている。
      久しぶりに会って、傍に居させてくれるのが嬉しくて、ジョセフはただシーザーの隣に立っていた。時々屋台に行き、ジャンクフードを買ってきては、シーザーの横で食べた。
      「なあ」
      「ん?(もぐもぐ)」
      「…一口食べさせてあげる、とか、そういう気持ちはねーのか?」
      「ん?(もぐもぐ)何?(もぐもぐ)食べたいの?」
      「…いや、いい。仕事中だしな」
      「ほら、あーん」
      隙を見てタコ焼きを差し出すと、少しぎょっとしてキョロキョロと辺りを見回した後、シーザーはぱくりとそれに食いついた。
      もぐもぐと仏頂面で咀嚼して、
      「美味かった」
      と一言だけ言って仕事に戻る。本当に真面目だな、とジョセフは笑った。
      そうしてしばらくすると、ジョセフの背中の方で「ドーン」と音がする。
      花火が始まったのだ。
      音のした方を覗くと、綺麗な花火の端っこが目に入った。
      「あーやっぱ高さがないヤツはここから見えないねー」
      「だから言っただろう、ここからじゃあ…」
      シーザーがそう言いながら振り返る。
      そのタイミングで、今日初めての尺玉が花開いた。
      ジョセフの背景に、綺麗な花火が打ちあがる。
      ドーンと遅れて音がして、キラキラと消えていく。
      「すげー!!結構見えるじゃん!!すげー!!」
      思った以上に花火が見えて、ジョセフは興奮が抑えられなかった。
      シーザーが言った通り、高さの低い仕掛け花火は見えなかったが、打ち上げ花火が始まると、目の前の空が色とりどりで染め上げられる。その度に何度もジョセフは声を上げた。
      子供の様にはしゃいでしまったかな、とシーザーを見ると、彼も仕事も忘れて花火に見入っている。
      あの真面目な奴が、と、少しおかしくなった。
      「すげーな、でっかい花火」
      そう言うとシーザーはジョセフを見て、呟くように言った。
      「あぁ…綺麗だ」
      ドクン、と胸が躍る。花火だ。自分のことではない。判ってる。
      シーザーが見つめているのは、自分、だけれども。
      また、背中で花火が上がった。
      シーザーの目線は動かない。自分を見たままだ。
      「シーザー、おれ…」
      背中で、ドンッと花火の音がした。
      「おれ、シーザーが、好きだ」
      シーザーの表情が、驚いた顔に変わっていく。
      「シーザーが…好きなんだ」
      もう一度、ジョセフは言った。言わずにはいられなかった。伝えたくて仕方がなかった。
      シーザーの顔が花火に照らされる。ドンっと花火の音が腹に響く。
      シーザーは一瞬、眩しそうな顔をして、そして言った。
      「おれも、JOJOが好きだ」
      時間が止まったようだった。打ちあがる花火の音と、自分の心臓の音しかしなかった。

      将来の話

      • 2015.07.14 Tuesday
      • 20:02
      梅雨だというのにやたら天気のいい日曜の午後。
      昼食の後リビングのソファーで居眠りをしていたジョセフは、庭から差し込む陽ざしの暑さに目を覚ました。
      むっくり起き上がって頭を掻くと、うっすら汗をかいている。
      軽く伸びをして立ち上がり、キッチンの冷蔵庫を開け物色する。缶コーラを取り出しプルトップを開けると、グラスに注ぐことなく直にグビグビと飲んだ。
      「クーッ。美味ぇ」
      喉を通る炭酸の刺激を味わって喉の渇きを潤すと、再びリビングに戻る。
      リビングから庭に通じるテラスに目を向けると、庭の片隅に座り込んでなにやら作業している弟の背中が見えた。
      「何やってんだ?」
      首を傾げてテラスから庭に降りる。
      おおよそ6畳ほどの広さの庭は、たびたびジョナサンが「なんとかしないといけないね」とは言っているが誰も手を付けようとはせず、草が生え放題に生えている。
      傍まで歩いていくが承太郎は顔を上げずに土をいじっていた。傍には買ったばかりであろうラベルがついたままのプラスチック製のひょうたん池が置いてある。
      「何?これ。買ったの?お前」
      話しかけるが返事がない。
      ジョセフはチッと舌打ちして承太郎の目線まで腰を下ろした。
      「なぁに作ってんだぁ?」
      「わっ!…あぁ…なんだ、てめーか…。驚かせやがって」
      「なんだとはなんだよ。さっきから話しかけてんだぜ、おれは」
      ジョセフがそう言うと、「あぁ」と承太郎は小さく言って、再び作業に没頭し始めた。
      手を泥だらけにしながら、小さな素焼きの鉢に植物を植えている。
      「…ビオトープを作るんだ」
      「ん?何?」
      ぼそりと呟くように言った承太郎の言葉が聞き取れなかったジョセフはすぐさま訊きかえしたが、承太郎からの返事はなかった。
      「ちぇっ」
      弟が集中し始めたら周りの声が聞こえなくなるのはよく知っている。そうとう夢中なんだろう、この土いじりに。
      肩をすくめてテラスに戻ろうと目をやると、リビングにジョナサンが立ってこちらを見ていた。
      「夢中だろう?さっき手伝おうかって言ったら断られたよ」
      「何作ってんのアイツ。話しかけても返事かえってこねーしよ」
      「ビオトープ。簡単に言うと小さな生物生息空間だね。水生植物を植えてメダカを飼ったり、エビやタニシを育てたり…ね」
      「へぇ、アイツそういうこと興味あんの?」
      ジョナサンはふふっと笑って「どうやら、承太郎はそっちの方向に進みたいと思ってるみたいだよ」と言った。
      ジョセフは一旦驚いた顔をして、あまり興味なさそうに「へえ」とだけ返した。
      どちらかというと社会人のジョナサンよりも、自分と承太郎、二人でいる時間の方が多いはずだったが、今まで全く進路の話などしたことがなかった。
      ジョナサンは保護者代わりだからそういう話をしているのは仕方ないし当然だが、今まで承太郎が何に興味があって、将来どうしたいかなど、話したことがないし自分だけが全く知らなかったということがジョセフにはちょっと寂しかったのだ。
      リビングのソファーにどかっと腰を下ろして、ローテーブルの上にあったクッキーに手を伸ばす。無言でバリバリと食べているのを変に思ったのだろうか、ジョナサンがジョセフの隣に座った。
      「え?何?」
      あまり距離を置かずに大きな身体が傍にきたので一瞬ジョセフは怯んだ。
      「ねえジョセフ」
      「…ジョナサン…近ぇよ」
      「あぁ、うん。それでね、ジョセフ」
      『うん』とは返事するが全く距離を置かずにジョナサンは非常に近い距離でジョセフを見つめて、そして言った。
      「ジョセフは将来、どうしたい?」
      ジョナサンはいつも直球だ。承太郎の将来の話から、ジョセフの話になるのは自然な流れだった。
      正直ジョセフはこの手の話が苦手だった。
      考えていないわけではない。ただ、判らないのだ。色んなことに興味があって一つに絞れない。今までジョセフが興味があったことは、すべて本気ですべて魅力的だった。だから全部を手に入れたかったし、だがそれはできないこともよく知っている。
      「うーん…」
      その手の話になると、いつもジョセフははぐらかしてきた。
      こんな気持ちは学者肌のジョナサンにはおそらく理解できそうにないだろうし、『もっと真剣に将来について考えないと』と説教されるのがおちだ。
      今ジョセフがハマっているのはオンライントレードだ。
      直感で株を売り買いし、結構儲けが出ている。勝負する感覚が楽しい。
      ただ、それを一生の仕事にするのか?と言われたら即答できない。他にもやってみたいことはたくさんあるし、その道だけというのもつまらない気がするのだ。
      それに。
      『夢』といってはなんだけれど、ジョセフには思いがあった。
      将来、シーザーと、何かできないだろうか、という漠然とした思いが。
      実際シーザーがどんな道に進んで、将来どうなりたいかなんて話は聞いたことがないのだけれど。
      ジョセフのその思いは子供の夢のようで、現実味のないものだ。
      「ジョセフ?真面目に考えているのかい?」
      「うーん…まあ、ざっくりと?」
      そう答えるとジョナサンのしっかりした眉は八の字に下がり、
      「うん、君は器用だから何でもこなせると思うけど」
      と心配そうに言った。
      「…後悔する生き方だけはしないで欲しいんだ」
      自由奔放に生きる弟へ、生真面目な兄の精一杯の譲歩なのだろうその一言で、ジョセフは肩の荷が下りたような気分になった。
      「それだけは約束できるぜ。おれは後悔だけは絶対しねぇ」
      その言葉を聞いて、ジョナサンは優しく微笑んだ。
       
       
      夕方ずいぶん薄暗くなってきた頃、やっと末っ子は泥だらけで庭から入ってきた。
      「お風呂に入りなさい」というジョナサンの指示に素直に無言で応じる後ろ姿を見送って、ジョセフは庭に据えられたひょうたん池を眺めた。
      中に植えた水草が水面から伸び、隅には小さな石が置かれ、すっかりそれらしくなっている。
      「負けてらんねーなぁ」
      そう呟いてジョセフは庭に背を向けた。

      保健室の告白

      • 2015.07.12 Sunday
      • 21:44
      朝から花京院は元気がなかった。
      いや、元気がない、というよりも落ち込んでいるのが手に取るようにわかった。しかも時々頭をかかえ、首を振り、言葉にならないような唸り声を上げている。そういう時の花京院は決まっていた。
      何かを思い出しながら、後悔の念にかられている時だ。
      承太郎は何度かそんな花京院を見たことがあるし、その度になぜ落ち込んでいるのか聞いてはみたものの全く理解ができなかったので、おそらく今回も聞いても無駄だろうとは思っていた。
      花京院がこの休み時間に何度目かの唸り声をあげ、隣の席の女生徒が薄気味悪そうなものを見る視線を花京院に送りながら席を離れたタイミングで、「やれやれだ」と言いながら承太郎は花京院に近づいた。
      「承太郎」
      傍に来た人影に気付いて花京院が顔を上げる。
      「行くぜ」
      「え?どこに」
      手首をつかんで立ち上がらせると有無を言わせず承太郎は歩き出した。戸惑いながらも花京院はついていった。
      こんな時に向かうところは保健室に決まっている。
      扉を開けるといつも常連の不良A、不良Bがベッドを占領していたが、承太郎の姿を見て半身を起こした。
      「すまねぇが、急病なんでな。そこ、空けてくれねーか」
      不良たちに承太郎は臆することなく言った。
      「ヤバイ」と花京院は思った。
      はっきり言って自分は『病』ではない。しかも校内では札付きのワルA、Bにベッドを譲れ、と言う同級生。これは激怒した不良に絡まれるパターンッ!!
      しかもおあつらえ向きに養護教諭は離席中。このギラギラとした不良たちはぼくたちを暴力で痛めつけた後、このベッドの上で、無理矢理みだらな行為を行うのだッ!エロ同人みたいにッ!!エロ同人みたいにッ!!
      …いや、それはないか。男子同士だ。痛めつけられた後ポケットの中から財布を脅し取られるくらいが関の山だろう。
      花京院は先日ネットサーフィンで目にした腐った淑女の様々な作品に影響されてしまった己の考えを否定した。
      しかも今日は長身で強面の承太郎と一緒なのだ。そこまで絡まれることはないだろう、多分。
      「おう、JOJO。久しぶりだな」
      「ん?お前のダチ公、調子悪いのか?いいぜいいぜ。おれ達そろそろ学校バッくれようと思ってたとこよ。使いな」
      「すまねぇな」
      不良たちは激怒することなく、承太郎に「じゃあな、JOJO」と言いながら保健室を出て行った。
      未だに承太郎を『JOJO』と呼ぶ人間が校内にいたこと、不良たちの使う言葉が懐かしの大映ドラマに出てくる不良みたいな言い回しだったことも花京院を驚かせたが、なにより承太郎がそういう人物と友達だったことが、花京院にとっては驚きでかつショックだった。
      なにやら自分とは違う世界にいるような、そんな感覚に陥り、妙に寂しさを覚えた。
      「今の人たち…知り合いかい?」
      「さて、な。知っているような、いねぇような」
      「友だちじゃあないのか?」
      「会うたびに挨拶してくる相手を『友達』というんならそうなんだろう。おれのほうは名前も知らねーやつだがな」
      「あぁ…そう」
      会話の間に不良たちが使ったベッドに歩み寄り、承太郎は花京院を促した。
      「あ、ぼくは別に、体調が悪いわけじゃあないんだ」
      「判ってる。だがどっちかが寝てねーと先生が帰ってきたときに言い訳ができねーだろう」
      「それもそうだね」
      花京院は承太郎の言われるままベッドに横たわった。
      『判っている』と承太郎は言った。落ち込んでいる自分の気持ちを汲んでくれたことに花京院は嬉しさを感じていた。
      なのに。
      この強面の友人は、何も聞いてはこない。ただ黙ってベッド横の折りたたみ椅子に座り、学帽を深々と被っている。
      「承太郎?」
      呼んでみたが返事がない。
      もしかして、眠っているのか?
      花京院は起き上がり、様子を伺った。
      目深に被った学帽から見える表情では判断できなかったが、すーすーと意外と可愛らしい寝息をたてている。実に無防備に。
      花京院は、はー、とため息をつき、「君ってやつは…」と呟いた。
      きいて欲しかったわけではないが、無関心に眠られるのも気分が悪い。もしかして、自分が落ち込んでいるから、という理由ではなく、単に眠かったから自分がだしに使われたのではないかとまで勘ぐってしまう。
      「ぼくはねぇ、承太郎。とっても落ち込んでいるんだよ」
      聞き手が眠っているのだが構わず花京院は話し始めた。
      「昨日、祖母の法事があってね、親戚が一堂に会した。久しぶりに会った従弟には小さな子供がいてね。4歳、だったかな」
      思い出しながら淡々と、花京院は話し続ける。
      「従弟が所用で席を離れる時に、少しだけみててくれと言われて子守りをしたんだ。このぼくが、だよ」
      自らを嘲笑するようにふふっと笑い、
      「その子が自分の持っているハンカチを見せて、『これ、夜になったら絵が光るんだよ』ってぼくに言うんだ。それは女の子に大人気の『プチキュア』の絵がプリントされたものだった。ぼくは『プチキュア』を知っている。恥ずかしながら毎週欠かさず見ているからね。それで、言ってしまったんだ、その子に」
      花京院はぎゅっと拳を握った。
      「『これ去年のプチキュアだね』ってねッ!あぁ…どうして僕はあの時『へー夜光るの?すごいねー』とか『プチキュア、可愛いね』って言ってあげられなかったんだろう。法事がすんでからぼくはずっと考えていたんだッ!その子を傷つけたんじゃあないか、『もうこのハンカチ使わないッ』って言ってるんじゃあないか、とか。そう思うとぼくは夜も眠れないッ」
      そう言って花京院が顔を上げると、無表情な承太郎が大きくため息をついて「やれやれだ」と言うのが目に入った。
      「じょ…承太郎ッ!君、寝てるんじゃあなかったのか?」
      「横でそんな大声出されたんじゃあ、眠ろうにも眠れねぇ」
      「あ…あぁそうか…すまない」
      何てことだ。眠っているだろうと思ってすべてをぶちまけたというのに。
      花京院は慌ててシーツを頭から被った。
      さっきの大きなため息はきっと呆れているのだろう。高校生にもなってこんな些細な事で悩んでいるなどと、思われたに違いない。
      暫く沈黙が続いた。沈黙が花京院には苦しかった。
      「去年のヤツの方が可愛いかったんだろう」
      「は?」
      花京院は顔を上げた。承太郎は無表情に花京院に尋ねた。
      「去年の『プチキュア』とやらはそんなに可愛いのか?」
      「…あ…いや…」
      「違うのか?」
      花京院は暫く考えて、そして答えた。
      「去年の『プチキュア』は…少しキャラデザインが異質だったね。素朴…というか、地味、というか…。だが、それがよかったとぼくは思う。派手さはないが、ひたむきな主人公の味が引き立っていた。ネットでの評判も、キャラクターデザインが発表になった時の低い評価から、回を重ねるごとに評価が上がっていたんだ。『プチキュア』史上一番の出来だとぼくは評価している。それに比べると今年の『プチキュア』は可もなく不可もなく、といった感じかな」
      「なら、いいじゃあねーか」
      「いや、ちょっと待ってくれないか、承太郎。それだと論点がずれているッ!ぼくがなやんでいたのは…」
      「てめーが可愛いと思ってるのと同じように従弟の子も可愛いと思って使ってたんだろ?何が問題がある?」
      「そ…それはそうだが」
      小さな子供は繊細なんだ。特に女の子は。『去年の』という単語が『一昔前の』と感じてしまうんだッと花京院が承太郎に反論しようとした時、保健室の扉がガラッと開いた。
      「およっ!せんせーいねーじゃん。ラッキー♪」
      明らかにサボりの体で保健室に入ってきた男子生徒は、ベッドにいる人影に一瞬怯んだが、それが花京院と承太郎だと判ると笑いながら歩み寄ってきた。
      「先客いるのか…と思ったら、お前らか。ぐーぜんだなあ。ははは」
      「ポルナレフ」
      「珍しい。花京院、お前までいるなんてよー。承太郎とは時々会うけどなー」
      「君らね…」
      サボりの常習か…しかも二人とも。
      花京院は呆れた顔を見せたが、今日は自分もサボりだ。人のことは言えない。
      「で?何話してたんだ?」
      「花京院に『プチキュア』について熱く語ってもらってた」
      「承太郎ッ」
      「えー?何?お前『プチキュア』なんて見てるの?」
      「うううううううるさいッ!見ていない者には判らんと思うがッ『プチキュア』は意外と哲学的な話も多いんだッ!大人の鑑賞にも耐えうるアニメなんだッ」
      「その手のやつならおれは断然『QTハニー』ちゃんだぜー。ボインボインでよー。たまんねーぜ」
      「そんな目で見るんじゃあないッ!!!!『プチキュア』も『ハニー』もそんな目で見て汚さないでくれッ!!」
      熱く語る花京院と、それをからかうポルナレフに挟まれ、承太郎は小さく「やれやれだ」と呟いた。
      保健室で昼寝を決め込もうと思っていたのに、どうやらそれもできそうにない。
      おそらくもうすぐ帰ってくる養護教諭にもれなく追い出されるだろう。
      それでも、あれだけ落ち込んでいた花京院がすっかり元気になったようで、承太郎は少し安堵したのだった。

      恋というのじゃないけれど

      • 2015.06.28 Sunday
      • 20:28
      待ち合わせはシーザーの現場に近い定食チェーン店にした。
      ホントはもう少し豪華にいきたかったが、シーザーは仕事終わりに現場から直に来るので、作業服でも違和感なく入れる店にした。
      ジョセフは入り口でローストンカツ定食の食券とフライドポテトの食券を買って、空いているボックス席に座った。水を持ってきてくれた店員に、とりあえずフライドポテトの食券だけを渡し、鞄の中から取り出したスマホを弄る。
      待ち合わせの店についたこと、席の位置などをシーザーにメールし終えると、ちょうど注文したフライドポテトが運ばれてきた。
      ひとつずつ摘まんでケチャップをつけてから口に運ぶ。どこの店のもさほど味に変わりがないもんだな、とジョセフは思う。
      ほどなくしてシーザーから返事が返ってきた。
      『今終わった。すぐに行く』
      味もそっけもない返事だが、ほんの数日前初めて携帯を持った男だ。これだけの文字を打つのもまだ時間がかかるのだろうと思われた。
      どんな顔をして携帯に向かっているのだろう、あの生真面目な男が。と、ジョセフは妙に可笑しくて小さく笑った。
      さて。
      シーザーに会うのは10日ぶりになる。
      シーザーの誕生日に会ってから、ジョセフは風邪をひいてしまい寝込んでいた。実際は「寝込んでいた」のは2日ほどだったのだが、ジョセフは熱が下がり普段の生活に戻っても、シーザーに連絡をするのを今日まで躊躇っていた。
      シーザーの誕生日に二人はしこたま飲んだ。飲んで、いい気分になって、気がついたら抱きしめられていた。
      「…ti amo JOJO」
      耳元で囁かれて、唇に柔らかいものが触れた。
      キス、されたのだ。
      なにぶんにも酔っていたのと、眠気が勝っていたのとで、その時の記憶はかなりあいまいではあるのだが。
      風邪の微熱の頭で2日間ゆっくりと考えて、「やっぱりあの時シーザーに告白されたのだ」と自覚した。
      自覚したら自覚したで妙に気恥ずかしくなり、そのことが頭をよぎるたび顔がかぁと赤くなってその度にジョナサンに「まだ熱があるんじゃあないのかい?」と余計な心配をかけた。
      前世では隠し子までいたというのに、今のおれってどうしてこの手の経験値が低いんだろうな?
      夢の中の記憶など断片的で、それを生かせる術はない。
      ジョセフは、病み上がりの冴えない頭で考えてもどうしようもないとあきらめて、ここはひとつ、恐らく自分で考えるよりはいいアドバイスをくれるだろう、と思われる人物に相談しようと思い立った。
      「お昼奢ってくれるなんて、どういう風の吹き回しなの?JOJO」
      平日のランチタイム。ジョセフは大学構内の学食ではなく、ちょっと通りを隔てたこじゃれたイタリアンレストランにスージーQを連れ出した。
      前世では夫婦だった間柄だ。
      高校の時分にクラスメイトとして出会い、仲良くなったところで夢の記憶に触発されてスージーQに告白したが、きっぱりと彼女にフラれた。
      「だってJOJO、あなたあたしに恋してないじゃない」
      鋭い。ジョセフはその時思った。
      「自分に恋してるかしてないかくらい、あたしにだってわかるのよ」
      確かに恋はしていない。仲のいい女友達の一人。ただ、前世で夫婦だったという思いだけでジョセフは交際の提案をしたのだ。それを見透かされたようにきっぱりと返された。
      普段天然ボケというかおっちょこちょいというかちょっとばかしトロイところがあるのに(そこが可愛いんだけれども)なんて鋭いんだ。やっぱり女の子はこの手の事に関してはあなどれねぇぜ、とその時ジョセフは思ったのである。
      フラれた、とはいえ、共に同じ大学に進んだ今でもスージーQは気の置けない友人の一人だ。
      パスタランチを食べ終えて、スージーQは満足そうだ。
      「美味かったかい?」
      「ええ、とっても」
      紙ナプキンで口を拭い「さて」とスージーQは言った。
      「話があるんでしょう?聞くわよ?」
      ニコニコと笑うスージーに、ジョセフは肩をすくめた。
      「先に断っとくがな、誰にも言うなよ?」
      「言わないわ。信用するかしないかはJOJOが決めて」
      どうも怪しいんだが、とは思ったが、ジョセフは声を潜めながら言った。
      「もし、…もしもだぜ?スージー。お前が、すっごく仲のいい友達…そうだなー…ええと…たとえばおれに、いきなりキスされたとしたら、どうする?」
      「え?JOJO、あたしとキスしたいのッ?」
      「ち…ッちげーよッ!バカ!」
      「バカってなによッ!」
      「声がでけぇよッしーッ」
      テーブルを挟んで向かい合って座っているスージーQにジョセフは顔を近づけて指に手を当て窘めた。
      「ごめんなさい」と肩をすくめ舌を出すスージーに「頼むぜ」とジョセフは返した。
      「どういうこと?例えがよくわからないけど…JOJO、あなた顔真っ赤よ」
      「うるせーな、おれの顔の事はいいんだよッだーかーらー…あー、もう」
      バリバリと頭を掻き、ジョセフは事の顛末をスージーに話した。もちろん相手がマッチョな男だということは省いて。
      「…ふーん。要は友達だって思ってた子に、キスされたってことね…」
      スージーは追加で注文したグレープフルーツジュースを一口飲んで、言った。
      「それで?JOJOはどうしたいの?」
      「どうしていいのかわかんねーからアドバイスして欲しいんじゃあねーか」
      「どう思ってるの?」
      「どうって…いいやつだぜ。口は悪いけどよー、優しいし」
      「そうじゃあなくて、キスされた事よ。その子にキスされたってことが、嬉しい?それとも嫌?」
      ジョセフはスージーの言葉を聞いて一瞬動きが止まった。暫く考えて、
      「嫌…じゃあねぇ」
      と、呟くように言った。
      そうなのだ。
      嫌じゃなかったのだ。困ってはいるが、キスされたことは嫌じゃなかった。告白されたことも。不快感など感じない。むしろ好意的に受け取っている。
      改めて問われて、ジョセフは自分の気持ちに軽くショックを受けた。
      「じゃあ、付き合っちゃいなさいよ」
      「えッ?」
      「キスされたことが嫌じゃあないし、JOJOはその子に好意は持ってるんでしょ?全然問題ないじゃない?」
      「いやいやいやいや。問題だろう」
      「どうして?」
      「どうしてって…」
      『相手は男だから』という言葉をジョセフは飲み込んだ。
      おそらく、それを言ったところで目の前に座っているこの可愛い子は、最初だけ目を真ん丸にして驚いて、それから続けて言うだろう。
      「それのどこが問題なの?」
      そう、おそらく自分がためらっているのはそういうことじゃあない。
      要は自分の気持ちだ。
      スージーQの言葉を借りれば、『恋をしているのか、していないのか』。
      はたして、自分はシーザーに恋をしているのだろうか?
      その答えを出せずに今日まできたのだ。
      恋をしているのかどうなのかなんてわかりゃあしない。だけどこれだけははっきりと言える。
      『おれは、シーザーを失いたくない』
      このまま自分がシーザーを避けていたら、必ずシーザーを失ってしまうだろう。
      それは嫌だ。絶対に嫌だ。やっと出会えたのだから。
      「よし、決めた。サンキューな、スージーQ。なんか先に進めそうだぜ」
      「あら、答え出たの?」
      「おう」
      ジョセフは晴れやかにそう答えると、早速シーザーにメールをした。
      『今日、会えないか?』
      頬杖をついて「結果報告、待ってるから」とからかう様に笑うスージーQに、肩をすくめるだけの返事をして、彼女の分も会計をすませて店の外に出た。




      シーザーから仕事が終わったとの連絡があってからおよそ10分。
      ふう、とジョセフは一息つき、ウィンドウの外を見た。
      遠くから足早にこちらに向かっている人物が見えた。背の高い、金髪の男。
      ドキドキする。
      これが恋なのだろうか?それとも…?
      ジョセフはテーブルの上のグラスに入っている水を一気に飲み干した。

       

      道草

      • 2015.06.18 Thursday
      • 22:26
      身体の力を抜き、ゆったりと泳ぐ。
      週に3日ほど、ジョナサンは市内のスポーツジムに通う。仕事で煮詰まった時などは、こうしてプールで2時間ほど過ごす。
      本当は毎日でも身体を動かしていたいのだが、食事当番の日などはさすがに仕事終わりには寄れない。時にはジョセフから当番を代ってくれとのメールが入ってくるので、結局週3日来れたらいい方だ。そのジョセフも先月来風邪ぎみで体調を崩していたので、実に久しぶりのジムだった。
      スイミングスクールが終わったのだろう、プールサイドに集まった子供たちが元気な声であいさつをし、各々更衣室へと消えていく。
      もうそんな時間か、とジョナサンは壁にかかっている時計を見上げた。
      プールから上がって、ベンチにかけていたタオルを手に取る。軽く身体を拭いた後、ベンチに腰かけた。
      『あの男とは付き合わない方がいい』
      今朝、同僚から言われた言葉だ。ディオのことだ、とジョナサンはすぐに察した。
      頭の切れる男と社内で評判のディオは、誰よりも仕事ができ、しかしなにかと敵も多かった。
      ジョナサンは、というと、誠実で確実な仕事ぶりだと上司からの信頼は厚かったが、それをディオは「上の言いなりだ。お前の仕事は馬鹿のやることだ」といつも酷評した。
      幼いころから色んなことで競ってきた二人だ。友達でもあり、ライバルでもある、とジョナサンは思っている。
      夢の中の、おそらく前世の記憶の中のディオは、恐ろしい化け物に豹変してしまったが、この世界ではそのような事はおこらない。おこらないが…
      「あの男は会社乗っ取りを計画しているらしいぜ」
      と、声を潜めながら同僚が言うので「そんな馬鹿な」とジョナサンは笑った。
      「同期の君だから忠告するんだ。もっぱらの噂だぜ。あの男と君は懇意にしているだろう?」
      「幼馴染だからね」
      「そうか。でも、ヤツには本当にいい噂がないんだ。君も巻き込まれちゃあいけない。距離を置いた方がいいと思うね」
      ジョナサンはその『噂』とやらを聞いたことはなかったが、敵の多いディオの事だ、あることないこと尾ひれを付けられて面白おかしく陰口をたたかれているのだろう。
      それとも。上昇志向の強いディオの事だから、存外本当かもしれないな、とも思う。
      まったく、いつの世も人騒がせな男だな、とジョナサンはため息をつく。そして、その人騒がせな男から離れられないのだ、自分は。
      忠告通り距離を置くことは容易だ。こちらから距離を置けば、ディオの方からは歩み寄っては来ないだろう。そうなるといずれは付き合いもなくなり、そのまま会うこともなくなるだろうことは目に見えていた。
      「そんなこと、…できないよ」
      ジョナサンは立ち上がり、プールに飛び込んだ。
      先ほどのようなゆったりとした泳ぎではなく、がむしゃらに水飛沫を上げながら一気に泳いだ。
       
      ジムを出て、自転車を押しながらアーケードを歩く。まだ夜の9時前だ。通りは若者で溢れていた。
      ジョナサンは人ごみを避け、路地に入った。車が1台通れるほどの道だ。メイン通りから1本入っただけの道だが、こちらは明かりも少なく薄暗い。自転車を押して歩いていたので人通りが少ないことがジョナサンにはありがたかった。
      なんとなく帰りたくなかった。
      憂鬱な顔を見られたらきっと聡いジョセフの事だから、色々と理由を聞いてくるだろう。
      ディオの名前を出せば、弟たちがいい顔をしないのも判っている。
      弟たちはディオのことを快く思っていないのだ。それは現世でのディオとの付き合いだけではなく、前の記憶のせいでもある。
      そんな弟たちの反応を見るのは嫌だった。
      普段歩かない路地を、行くあてもなく歩く。メイン通りとは違って、不思議な雰囲気の店が多い。
      手書きの看板、薄暗い店内。パッと見には何を営んでいるのかわからないような店構えの扉に、若い女性が連れ立って入っていくのを見てジョナサンは面喰った。女性が消えた扉の向こうを覗き込むようにして見ていると、
      「興味がございますかな?」
      と、不意に話しかけられた。振り返ると不思議な格好をした男が立っていた。
      黒髪をドレッドのように頭頂部でまとめターバンを巻いている変わった髪型、長いコートのような上着を羽織り、大きな細工のネックレスらしきものを首から下げている。
      「いえ、その…ここは若い女性が入るお店なのか、と。…すみません」
      決して店に興味があったわけではない。ジョナサンが恥じ入ると、目の前の男にはその様子が好ましく映ったのか、にっこりと笑った。
      「ははは。貴方は正直なお人のようだ」
      くっきりとした眉、大きな目。堀の深い顔立ちのその男はジョナサンに店の中に入るよう促した。
      「いえ…ぼくは…その…あ、じゃあ、少しだけ…」
      ジョナサンは一旦断ろうとしたが、店の不思議な雰囲気に興味がわいてしまい、こくりと頷いた。
      「どうぞ」
      男に導かれるまま、恐る恐る店内に足を踏み入れる。
      目の前に広がる薄暗い店内。細い廊下には複数の小さな扉がある。男は入って3番目の扉を開け、少し身体を屈めてそこに入った。
      ジョナサンより一回り小さなその男でも窮屈そうだ。
      自分も入れるだろうか?と思いながら後に続くと、扉の向こうは思ったより広かった。とはいえ、広さでいうと3畳くらいか。小部屋の中央にテーブルと2脚の椅子が向かい合うように置かれていた。
      「お座りください」
      その一つに座るように促された。
      何の店だろうか。不思議な香りがする。
      キョロキョロと辺りを見回すと、男と目が合ってしまいジョナサンは苦笑いした。男は微笑むと「ここは占いの館です」と言った。
      「占い…ですか」
      「ええ。私はタロットをやります」
      男はポットからティーカップにお茶のような液体を注ぎ、ジョナサンに薦める。甘酸っぱい香りが立ち込める。薄暗くてよくわからないが、紅茶とは違うようだ。
      「カルカデ、といってエジプトのお茶です。ハイビスカスティー、といえばわかりやすいですかな」
      一口飲んでみると、酸味が強い。想像とは違う味で思わずジョナサンは咳込んだ。
      「ははは。少し酸味があるでしょう。これにシロップをうんと入れて飲むのです」
      言われるままシロップを入れ、飲んでみる。酸っぱさに慣れてくると不思議とくせになる。
      ジョナサンは一気にカップのお茶を飲み干した。
      「ご馳走様でした。…変わった、味ですね…とてもおいしかったです」
      というと、対面の男は満足そうに微笑んだ。
      「何か、占いましょうか?」
      男は訊いてきた。ジョナサンは返答に困った。特に占いに興味があるわけではない。男に誘われてつい入店してしまったからだ。
      ジョナサンの心の動きが感じ取れたのか、男はふっと笑い「サービスですよ」と言った。
      タロットを操り、しばらく集中し始める。ジョナサンも、そう言われては断るわけにもいかない、と黙って男の動きを見ていた。
      タロットの事は全く分からなかった。だが男の些細な動きで「多分、重要なカードが出たのだな」ということは感じられた。
      暫くして、占い師は動きを止め、ジョナサンを見つめて静かに話し始めた。
      「これは『死神』のカード」
      「し…死神…?」
      「恐れることはありません。カードにはそれぞれ意味があるのです。…あなたは今、どっちつかずで中途半端に悩んでおられることがある。このままでは未来が見えませんな」
      占い師の言葉にジョナサンはハッとなった。
      ディオの事だろうか。
      「心当たりがありますか?」
      と、対面の男が少し微笑んだ。ジョナサンは答えずカードに視線を落とした。
      男は並べられたカードを指しながら、話を続ける。
      「しかし正位置に『戦車』のカード。これの意味するものは『強い意志』『実行』。貴方の行動力が今の悩みを打ち破ることとなりましょう。自信を持って進むことです」
      「……」
      ジョナサンは黙ってうなずいた。
      自分の信じた道、か。ディオを切り捨てずに、付き合っていく。
      同僚の助言に揺らいでいた自分を恥じた。
      不思議だ。今の今まで占いなど全く興味がなかったというのに、つい引き込まれる。しかも自信も沸いてくる。
      「ふふふ。いい結果だったようですな」
      「あ、…いえ」
      ジョナサンはそう答えて少し考えてから
      「はい。…そうですね」
      と、男を正面から見つめながら言いなおした。
      そのジョナサンの返答に、男は大きく頷いた。
      「あなたは占いで左右される人間ではないように思われます。ですが、わたしの一言であなたが少しでも救われたなら、占い師としてこのように嬉しいことはない」
      「はい。ありがとうございます」
      ジョナサンはお礼を言って席を立った。
      「何か吹っ切れた気がします」
       
      男は店の出口までジョナサンを見送りに出てくれた。
      ほんの好奇心で店を覗いただけだというのに、ずいぶんよくしてくれるのだな、とジョナサンは不思議に思っていたが、まるで心の中を見透かされたように占い師は語り始めた。
      「あなたとは何か妙な縁を感じる。何か遠い記憶の中で、かかわっていたように感じるのです」
      占い師はそう言ってじっとジョナサンを見た。
      もしかして、とジョナサンは思った。
      前世の記憶なのであろう夢の中にも預言者らしき老人が出てきた。白いひげを蓄えた夢の中の預言者は、なんという名前だったろうか。
      「私の名前はモハメド・アヴドゥル。またお会いしましょう」
      ジョナサンは何度もお礼を言い、男の差し出す手を強く握って別れた。
      自転車を押しながらゆっくり歩き記憶をたどってみたが、「アヴドゥル」という名前に覚えはなかった。
      前世からの運命の出会いを予感させたが拍子抜けだ。
      それでも。
      「いい出会いだったな」
      ジョナサンはふふっと笑って自転車に飛び乗る。
      ずいぶん道草を食ってしまった。
      夜風に当たりながら、ジョナサンはすがすがしい気持ちで家路を急いだ。

      買い出しは闘いだ

      • 2015.06.14 Sunday
      • 10:19
      想像を絶する黒山の人だかりにジョナサン、ジョセフ、承太郎の三兄弟は唖然とした。
      行きつけのスーパーが開店10周年記念称してセールを行う、との広告を見たのがつい一時間前。
      いつも購入するマヨネーズやしょうゆや砂糖、洗濯用洗剤のような日用品まで普段の5%から最大10%の値引き、ということで、のんびりと朝食をとりながら新聞に挟まれた広告を整理していたジョナサンの顔色が変わった。
      「ジョセフ!承太郎!行くよ!」
      普段は「ヤダヤダ、めんどっちー」などと断固拒否するジョセフもジョナサンの気合の入れ具合に圧倒されてか首を縦に振った。
      承太郎はそれを見て「やれやれだ」と立ち上がった。
       
      さて、開店時間と同時に黒山の人だかりは店内に吸い込まれていく。
      これだけの人ごみにもかかわらず、三兄弟ははぐれることはない。なにせ身長195cm。人ごみから頭がぽこっと出ているのだから。
      「ジョセフはお砂糖。承太郎はマヨネーズを頼むね。1人1つだから3つキープするんだよ、いいね。会計の前で合流!」
      「おうよ!」
      「…」
      威勢のいい返事のジョセフに対して無言で頷く承太郎。
      「どけどけ!ババアども!」
      いきなりジョセフは無理矢理人ごみを掻き分け始めた。
      「ジョセフ!なんてことをッ!」
      ジョナサンが慌てて後を追う。首根っこを引っ掴まれて、ジョナサンに人ごみの中から一旦引きずり出されるジョセフの姿を見て、承太郎は大きくため息をついた。
      「あら、いい男♥」
      「イヤだ奥さん、まだ学生さんみたいよ。でもたくましいわねぇ」
      「りっぱな身体してるわぁ♥」
      こそこそと自分の周りの奥様連中が話しているのが耳に入る。聞こえていないとでも思っているのだろうか。しかもどさくさに紛れてベタベタと触ってくる。
      (痴漢のオヤジと変わらねぇじゃあねーか…)
      怒鳴ってやろうかとも思ったがジョナサンからげんこつをひとつ貰っているジョセフの姿が目に入って、承太郎はそれを思いとどまった。ちッと舌打ちして人の流れに身を任せる。
      年甲斐もなくきゃあきゃあと盛り上がっているマダム達に囲まれながら、承太郎はなんとか目的の場所までたどり着いた。
      群がる人ごみの頭の上から手を伸ばし、なんとかマヨネーズを3つキープする。
      振り返ると小学生くらいだろうか、小さな女の子がオロオロとしていた。
      群がるマダム達の迫力に気圧されているように、目的の所にたどり着けないでいるようだ。
      承太郎は手に持っているマヨネーズをひとつ少女に差し出した。
      「1つでいいのか?」
      少女の顔がぱあっと明るくなり、「うん!」と頷く。
      「ありがとう!おにいちゃん」
      承太郎の手からマヨネーズを受け取り、嬉しそうにお礼を言って去って行く少女を見送ると、もう一度承太郎は人だかりに向かった。
      軽々と目当てのものを手にすると、今度はよぼよぼのおばあさんが果敢にも人ごみにチャレンジしようとしている。体格のいい中年女性に少し触れただけでフラフラとよろけている。
      チッと承太郎は軽く舌打ちして、歩み寄った。
      「ばあさん。ひとつでいいのか」
      体格のいい強面の男に声をかけられ、老婆は一瞬たじろいだが、マヨネーズを差し出され承太郎の意図を汲んだのか微笑みながらそれを受け取った。
      「ありがとう、ありがとう」
      よろよろしながら何度も承太郎にお礼を言う老婆。スーパーの買い物かごはほとんど空だったにもかかわらず、重たそうに持っている。
      立ち去ろうとするその背中に承太郎は「待て」と言った。
      「他に何を買うんだ?」
      「え?」
      「おれが持ってやる。何を買うんだばあさん」
       
      入り口でジョナサンにひとつげんこつを貰ってしまったジョセフはすっかりテンションが下がってしまっていた。
      ぎゅうぎゅうに押してくる人だかりは女性率は高いが自分のストライクゾーンには程遠い年齢で、しかもずうずうしく割り込んでくる。腹はたつがまた暴言を吐いてしまうとジョナサンのげんこつが恐ろしいのでジョセフは押されるたびに言葉を飲み込んだ。
      これだけの人数集まってるってのを何かに使えないだろうか、と人の流れに身を任せながらジョセフは考えていた。
      たとえば。
      ひとり10円の寄付をつのるといくらになるだろうか、とか。スーパーの床に踏むと電気が作れる発電システムを設置すればどれだけの電気が作れるのだろうか、とか。
      気がつくと目的の砂糖売り場はとっくに通り過ぎていた。
      人を掻きわけ逆流するのにもエネルギーがいりそうだ。
      ジョセフは考えた。
      このまま流れて行っても、結構また元の道に戻れるのではないか、と。一方通行ではないのだから、またぐるりと回ってくればいいや、と。
      暫くそうやって歩いていると、美味そうなものが目に留まる。お惣菜コーナーでは大好物のフライドチキン。ドリンクのコーナーではコーラ。
      気に入ったものをジョセフはポイポイとかごに入れていく。お菓子、コミック…再び砂糖の売り場にたどり着いた時には買い物籠は一杯で、逆に砂糖売り場には「売り切れました」の札がぶら下がっていた。
      「あちゃー」
      ジョセフは天を仰いだ。
      ふと前を見ると、中年女性に囲まれたジョナサンが目に入った。
      「お兄ちゃん!うちのもたのむよ!2つとって!」
      「兄さん!今度は私のも!」
      醤油売り場で中年女性の言われるままに、商品を渡している。
      どうやら体格の良さをかわれて(?)上の棚のものを取らされているようだった。
      「人が良すぎるぜ…ジョナサン」
      首を振って視線を別に移すと、なぜか老婆を背負ってレジに並んでいる末っ子が目に入る。
      「何やってんだ?アイツは」
       
      ジョースター家の本日の戦利品?は、承太郎のキープした2本のマヨネーズと、ジョセフが籠に入れた安売り対象外の嗜好品のみであった。

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